研究内容の紹介
Ishida A, et al. Cell Metabolism. 2005;5:297–307.
光は視床下部の視交叉上核(SCN)を介して副腎を活性化し、コルチコステロンを分泌させる
夜間の光刺激がSCNから交感神経(脾臓神経)を経由して副腎皮質を直接活性化し、下垂体ACTHの上昇を伴わずにコルチコステロン(糖質コルチコイド)を分泌させることをマウスで証明した研究です。遺伝子発現(Per1など)は光刺激後30分で始まり60〜120分でピークに達し、ホルモン放出も光の強さに依存して増加しました。光療法がホルモン・代謝に作用する仕組みの基盤となる知見です。
Ishida A, et al. Nature Communications. 2011;2:327.
RGS16が視床下部の視交叉上核の細胞内シグナルを介して概日リズムの位相を決定する
視床下部の視交叉上核(SCN)の中でも背内側に位置する細胞は、他の細胞より早く時計遺伝子Per1を発現する「先行細胞」です。本研究は、RGS16というタンパク質が夜明けにGαiを阻害してcAMP合成を許し、Per1発現を前進させることを発見しました。RGS16を欠損したマウスは、この位相前進が失われ、概日周期が約24.3時間に延長しました。細胞内Gタンパク質シグナルが細胞間の同期を介して行動リズムの周期を決めることを示した研究です。
Ishida A, et al. Neurosurgery. 2022;91:775–781.
海綿静脈洞内側壁の切除が機能性下垂体腫瘍の寛解率を改善する
248例の機能性下垂体腫瘍を、海綿静脈洞(CS)浸潤の有無と内側壁(MWCS)切除の有無で3群に分類。観察だけでは判断が難しい微小浸潤が57%の症例で病理学的に確認され、疑わしい場合に内側壁を積極的に切除する方針が、高い完全寛解率(94.1%)につながることを示しました。
Ishida A, et al. Journal of Neurosurgery. 2023;139:1671–1680.
MRIで判定困難な再発クッシング病に対する11C-メチオニンPET(MET-PET)を用いた臨床的意思決定
複数回の手術・放射線治療後にMRIでは腫瘍再発か術後変化か判別できない再発クッシング病15例にMET-PETを実施。8例で陽性所見が得られ、うち2例では前回病変の反対側に再発巣を同定。MET-PET陽性例には再手術や放射線治療、陰性かつ高悪性度例にはテモゾロミド(TMZ)を選択するという、MET-PET所見に基づく治療プロトコルを提案しました。
Ishida A, et al. Pituitary. 2022;25:238–245.
難治性プロラクチノーマに対するCAPTEM(テモゾロミド+カペシタビン)療法の有効性—ex vivo 3Dスフェロイドアッセイによる評価
ドパミン作動薬抵抗性の難治性プロラクチノーマ2例に対し、手術摘出組織を用いたex vivo 3Dスフェロイド培養でテモゾロミド(TMZ)感受性を評価。症例1ではTMZ単独は無効でしたがCAPTEM併用でPRLが部分的に低下(9070→4046 ng/mL)。症例2ではTMZ感受性が確認され、CAPTEMにより腫瘍がほぼ消失しPRLが17,500→約200 ng/mLまで著明に改善しました。プロラクチノーマへのCAPTEM治療と3D培養による薬剤感受性予測を報告した世界初の報告です。
Ishida A, et al. Frontiers in Oncology. 2022;12:916982.
難治性の侵襲性成長ホルモン産生下垂体腫瘍に対するCAPTEM療法
5回の手術・放射線治療を経ても脳幹周囲に再発を繰り返した極めて稀な侵襲性ソマトトロフ腫瘍例。MGMT強陽性・Ki-67 22%と高悪性度でしたが、3Dスフェロイドアッセイで5-FU併用がTMZ単独より有効と判明し、CAPTEM治療を施行。3コース後に腫瘍は7分の1に縮小し、GH・IGF-1も正常化しました。MGMT強陽性の成長ホルモン産生腫瘍にCAPTEMが有効であることをex vivo・in vivo双方で示した世界初の報告です。
Ishida A, et al. Frontiers in Endocrinology. 2024;15:1400671.
再発・再増大した非機能性下垂体腫瘍の病理学的特徴—初回手術例との比較
再手術例61例と初回手術例244例の病理を比較。ホルモン陰性腫瘍(HNT)の割合は再手術群で有意に高く(49.2% vs 35.3%)、サイレント・コルチコトロフ腫瘍(SCT)の割合も有意に高値でした(39.3% vs 22.5%)。さらにサイレント・ゴナドトロフ腫瘍のうちホルモン陰性だが転写因子SF1陽性の腫瘍の割合も再手術群で有意に高く(60.0% vs 39.1%)、従来「null cell tumor」と誤診されやすかった腫瘍が再増大に関わっていることを示しました。また、初回手術が部分摘出(PR)だった群は、肉眼全摘(GTR)群よりKi-67が低くても短期間で症候性に再増大する傾向がありました。
Ishida A, et al. Endocrine Journal. 2025;72(7):781–789.
保険適用外でのテモゾロミド使用の実態—侵襲性下垂体腫瘍13例の経験
侵襲性下垂体腫瘍13例(コルチコトロフ8例・ラクトトロフ4例・ソマトトロフ1例)にテモゾロミド(TMZ)を投与し、MGMT免疫染色が陰性の場合はTMZ単独、陽性の場合はカペシタビン併用(CAPTEM)を選択する方針を採用しました。奏効率はMGMT低発現群でCAPTEM 57%・TMZ単独46%、MGMT高発現群では8%・19%にとどまり、MGMT発現に基づく薬剤選択の妥当性を示しました。治療継続中は7例、終了は6例(無効3例・経済的理由2例・本人希望1例)で、副作用による中止例はありませんでした。日本ではTMZが保険適用外のため自己負担は1サイクルあたり7.5万〜13万円に及び、2例が費用を理由に治療を断念するなど、保険収載の必要性を提起しています。
Ishida A, et al. Endocrine Journal. 2021;68(10):1217–1223.
下錐体静脈洞サンプリング(IPSS)の再検証—単施設における最新65例の経験
MRIで下垂体腺腫が確認できないクッシング病疑い19例にCRH負荷下垂体下錐体静脈洞サンプリング(IPSS)を実施。ACTHの中枢・末梢比から15例で中枢性が示唆され、判定困難な残り4例にはプロラクチン補正比を用いる従来のアルゴリズムを適用し、最終診断と一致する結果(真陽性2例・真陰性2例)が得られました。偽陰性は0例でしたが、手術で腫瘍が確認できなかった偽陽性が3例(20%)あり、腫瘍側性の予測精度は91.7%でした。10年以上運用してきたプロラクチン補正アルゴリズムの妥当性を再確認した報告です。
Ishida A, et al. World Neurosurgery. 2020 May 11:S1878–8750.
FilterWire EZのみを用いた頸動脈ステント留置術(CAS)—不安定プラーク症例での新規脳病変発生率の検討
不安定頸動脈プラークを有する60例に対し、塞栓防護デバイスとしてFilterWire EZ単独を用いたCASを実施。術後拡散強調MRIで新規病変を認めたのは8.3%(5例)のみで、症候性脳卒中・重篤な合併症は0例でした。複雑な多段階防護システムを使わずとも、フィルター操作の徹底(留置中の位置を動かさない)と吸引カテーテルの併用により、不安定プラークでも低侵襲かつ低コストで安全にCASを行えることを示しました。
Ishida A, et al. Journal of Neurosurgery: Spine. 2011;15(2):187–189.
内頸静脈血栓症を合併した頸椎部自然脊髄硬膜外血腫の1例
突然の後頭部・頸部痛と左片麻痺で発症した56歳女性。C3–5レベルの自然脊髄硬膜外血腫を認め、血管撮影で左内頸静脈(IJV)の血栓性閉塞と周囲静脈叢の拡張が判明しました。これらの所見は、IJVの血栓性閉塞が周囲の脆弱な静脈叢の圧上昇とうっ血を招き、破裂・出血につながったことを示唆します。抗凝固療法は行わず保存的治療のみで経過観察したところ、5日後にIJV血流が自然に再開通し、血腫も消失しました。特発性IJV血栓症が頸椎部自然脊髄硬膜外血腫の一因となりうることを示した報告です。
Ishida A, et al. Journal of Biological Chemistry. 2002;277:26217–26224.
TGF-βは骨由来血管内皮細胞にRANKL発現を誘導し、破骨細胞形成を促進する
骨組織に豊富に蓄積され、骨吸収時に遊離・活性化されるTGF-βが、骨髄由来血管内皮細胞(BM-3)やヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)において、破骨細胞分化に必須なRANKLの発現をmRNA・タンパクレベルで誘導することを示しました。同じ刺激でも骨芽細胞様間質細胞(ST2)ではRANKLは誘導されず、内皮細胞に特有の現象であることが判明。シグナル解析では、PKA–CREB経路とp38 MAPK–ATF-2経路がそれぞれRANKLプロモーター上の2つのCRE様配列に作用して転写を促進しており、COX-2/PGE2経路は関与しないことも確認しました。骨転移などの病的な骨吸収において、血管内皮細胞自体が破骨細胞形成を後押しする新たな経路を提示した研究です。
Ishida A, et al. Brain Tumor Pathology. 2013;30(1):45–49.
松果体部乳頭状腫瘍(PTPR)の1例—IDH1/2遺伝子型解析から上衣細胞起源を支持
第三脳室に生じ複数回再発を繰り返した22歳男性のPTPR例を報告。亜全摘出・ガンマナイフ・サイバーナイフ治療を経ても再増大し、壊死巣の存在と再発傾向からWHO grade IIIに相当すると判断しました。低悪性度グリオーマで高頻度に検出されるIDH1/IDH2変異を免疫染色とdirect sequencingの両方で検討したところ、本症例は野生型でした。この所見は上衣腫(ependymoma)で報告されている結果と一致し、PTPRがグリオーマ系列ではなく脳室周囲の特殊な上衣細胞(分泌下器官:SCO)由来であるという仮説を支持する、PTPRにおけるIDH遺伝子型の世界初の報告です。
※その他、国際誌に40編以上の査読付き論文を発表。筆頭著者論文の被引用回数は累計1,000回以上。
著書・分担執筆
臨床現場に直結する実践的な知識の普及にも注力し、専門書の執筆・編集に携わっています。